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「看取る」最後まで一緒に。

初めて終末期獣医療について思ったことは、大学病院での診療に従事していた時でした。とある先生が末期がんの動物のご家族に、もう出来る事はない、かかりつけの病院に戻るよう伝えました。その時ご家族はとてもショックな表情を見せ、「これからどうしたらいいの…」と仰りました。どのくらいの動物とその家族が、過酷な終末期を迎えているのか、その疑問は、骨転移を伴う肺がんだった自らの犬を看取った時に確信に変わりました。寝たきりになりました。手足は浮腫で膨らみました。夜に痛みは強くなりました。これほどまでに、自分が獣医師だったことに助けられたことはありません。

動物にとって最良の選択は何なのか?満足いく看取りとは何なのか?後悔しない別れ方とはどういうことなのか?と考えました。すると「自宅で最後を迎えさせたい」という希望に応えたいと思うようになりました。病院でがんのステージ4末期患者を診ていた時、私の目標は「先が短いその子をとにかく家に帰すこと」でした。敗血症になっても、DICになっても、発作が起きても、安定を取り戻させて家に帰す、思い通じてその子は退院し、自宅で御飯を食べたあと、お母さんのそばで逝きました。出来ることすべてやって、そして家で亡くなった、家族の穏やかな笑顔がありました。

病気の際、通院や入院が必要なことはあります。呼吸が苦しくても回復する見込みがあるならば、私も挿管して人工呼吸器に繋げるでしょう。しかしそれが終末期ならば。自宅で家族と時間を過ごして、最後を自宅で迎える、そういう選択肢があってもいいのでは?

ミッションのスタート以降、多くの患者さんとそのご家族に出会いました。病気というものはオリジナリティが高く、100頭の動物がいたら、100頭の治療や処置、そして看取りがありました。ご家族の希望、環境、状態に合わせて、その動物専属のオーダーメイドのきめ細かい獣医療を目指しています。長年一緒に暮らした動物は、ペットでも子どもでもありません。その人自身の分身です。その存在の死にハッピーエンドはありません。どんな場合も必ず悲しくて、必ずつらくて、必ず後悔があります。でも少しでもそれを減らせたら。暗闇の道を照らす街灯になれたら。最後まで支えます。

往診は1人から2人とできる限りご迷惑にならない人数で伺います。ご家庭で用意するものは何もございませんのでご安心ください。強いて言えば今までの検査結果をご用意ください。当院は、不必要な検査、無駄な治療、不必要な投薬はいたしません。また、次回の予約を強制することもございません。プライバシーを重視しています。往診前の掃除も必要ありません。そのままでけっこうです。

当院は救急病院ではありません。新規患者の予約は即日では取れないことがございます。なるべく早めに予約を取ることをお勧めします。

まずは出来ることから始めましょう

 

緩和ケアは、例えば悪性腫瘍や腎臓病、認知症状と診断されたその日から、あるいは歳を重ね衰えが見えてきたら早いうちから行うことでその道のりを緩やかなものにします。起こりえる症状を、エビデンス(証拠)に基づきながら、痛みや不快感、気持ち悪さ、苦しさを、薬や処置によって和らげます。ターミナル期(終末期)にはさまざまな介護、ケア、治療が必要になります。動物たちの最後を出来る限り快適に、痛みなく過ごしてもらえるようお手伝いいたします。当院獣医師は、日本緩和医療学会、東京がんプロフェッショナル緩和医療学等に積極的に参加し、看取り獣医のプロとして切磋琢磨しています。

  • 手術や抗がん剤

既に外科手術、放射線療法、抗がん剤治療を終わらせた動物でも、もし最後まで腫瘍と闘いたいと希望される場合は、メトロノミック化学療法や、分子標的薬、抗がん剤によるレスキュー療法を行います。抗がん剤によって原発が縮小すると身体が楽になることがあります。治癒しない腫瘍を闘う時に目指すのは、原発を縮めた状態で、微小転移や体の弱りでゆっくり楽に亡くなっていくことです。

  • 骨転移対策

乳腺腫瘍や肺腺癌、骨肉腫、多発性骨髄腫などは、早いうちからBMA製剤や放射線を使用することで骨転移による疼痛を和らげることが可能です。

  • がん性疼痛、非がん性疼痛

動物は痛みを感じると、元気や食欲が無くなったり、動かなくなったり、触ると鳴いたり怒ったりします。特にがんの骨転移等の痛みはかなり強く、QOLを著しく下げるものです。早期に適切な鎮痛を行って痛覚過敏(アロディニア)を防ぎ、動物を痛みから解放し、QOLを上げるよう努力しています。疼痛管理の大原則に基き、経口管理を基本としますが、動物の場合、注射での投薬のほうが負担が少ないことがあります。WHO鎮痛ラダーに基き、最適な薬を選択します。NSAIDsや非麻薬性オピオイド、医療用麻薬を、経口薬、貼付剤、粘膜吸収剤、坐剤、皮下注射、筋肉注射、持続静脈注射、持続皮下注射にて切れ目のない適切な痛みの管理を目指しています。神経ブロック、硬膜外ブロックも可能です。神経障害性疼痛に対応する投薬ももちろん可能です。大学病院や他施設での緩和放射線のご紹介もいたします。

  • 消化器症状

​嘔吐、下痢、便秘などの様々な症状に対して、様々な投薬内容で改善を目指します。抗がん剤使用中は下痢が起こりやすくなり、オピオイド使用中や、終末期は便秘が起こりやすくなります。

  • 食欲減退

自分から食べる意欲がなくなるとご家族はとても不安になります。また強制給餌は時に動物・家族共に苦痛を感じることがあります。食欲が出るよう、様々なフードを用意し、工夫もおこなっています。投薬による増進も可能です。給餌中は誤嚥性肺炎を防止するためにも、必ず上体を起こして食べさせましょう。

  • 呼吸器症状

様々な原因によって呼吸が苦しくなり対処法も異なりますが、酸素ボンベ、マスクの貸し出しをおこなっております。フロセミド吸入療法、送風療法も行なっています。鼻づまりにも良いお薬を用意しています。

  • レントゲン検査

​動かすことができない動物も、自宅でレントゲン撮影が可能です。当院のレントゲンは最新のデジタルレントゲンです。これにより、肺水腫、胃拡張などの診断が容易になりました。立位でのレントゲンも可能です。

  • 褥瘡(床ずれ)

褥瘡は次々と現れることがあります。外科的なデブリードメントから、消毒、包帯法、FGF製剤の使用などによって対処します。

  • 腫瘍自壊

腫瘍自壊に伴う出血や臭いは動物のみならず、家族の精神的負担を増加させます。腫瘍自壊部の特殊軟膏処置(モーズなど)を行います。

  • 腎臓病・腎不全

皮下点滴、皮下点滴の指導、静脈点滴機の貸出などの輸液療法を行います。腎性貧血のホルモン療法も可能です。

  • 発熱

発熱の原因によって対処します。輸液療法、微量点滴機を使用したDIC対策も行います。ペネム系抗生剤も、薬剤耐性を考慮しながら使用することがあります。

  • 頭蓋内圧亢進状態

​脳腫瘍、脳梗塞、脳出血等と診断されている場合の、頭蓋内圧を下げるための点滴、注射に対応しています。

  • 発作

てんかん様(よう)発作、脳の器質的病変による発作に対して、発作を抑えるコントロールを行います。重積状態には多種の抗てんかん薬での対応が可能です。頭蓋内圧亢進状態の脳症状にも対応します。

  • 前庭障害

身体が傾いてしまったり、歩いてもくるくる回転してしまいます。多くは特発性(原因不明)で、症状は短期間で改善することが多いです。症状によっては投薬を行います。

  • 出血や貧血

原因によって、対処します。赤血球の形態の観察が欠かせません。輸血が必要な場合がありますが、終末期に輸血をする意義をオーナーと話し合い、再考します。
 

  • 胸水・腹水・心嚢水

​ポータブルエコーにより、自宅にて胸水や腹水、心嚢水を抜去することができます。

 

  • 老衰、認知症状

ゆっくり老いて行く動物に合わせて、普段からできる筋力マッサージなどを取り入れて、なだらかな丘を越えていきましょう。認知症状の動物は、例えば眠りから覚めたあと、自分の状況がわからないことで「ここはどこなの?」「自分はだれなの?」「いまなにしてるの?」と混乱しています。夜間など、ご家族の介護疲れを防ぐためにも、精神安定剤、鎮静剤の投薬を行います。

  • 歯石除去

当院は日本小動物歯科研究会の声明に従い、歯や周辺組織、精神にダメージを与える無麻酔の歯石除去を推奨しません健康な犬猫は全身麻酔下での歯石除去を薦めています。しかし終末期や病状によって、かつ、歯石や歯周病が病状に影響している場合、鎮静下での歯石除去を往診か外来で行っております。
 

そしてターミナルケアへ

 

寝たきりになってきました。吐き気や下痢はありませんか?胸水や腹水も溜まっているかもしれません。トイレも漏らしてしまうことが多くなります。動物は身体が濡れることを嫌がります。また、自分の寝ている場所は清潔に保ちたいため、鳴いたり動いたりするかもしれません。常に衛生的にしてあげましょう。尿が出ない場合の導尿や、下痢や便秘にも対処する必要があります。

1日でも長く生きてほしいと望むならば強制給餌を続けてください。一方で、なるべく楽に亡くなってほしいと願うならば、嫌がるのを無理に食べさせずに身体を空っぽにしてきましょう。また終末期には、動物は食べ物を口に運ぶ、それを嚥下するという能力が落ちます。食べたいけれど口が動かなくて食べられないのかどうかを見極めましょう。そして経口での投薬が難しくなってきます。早い段階で注射投薬に切り替えます。希望されれば食道チューブ、経鼻チューブの設置を行い、給餌が行えるようにいたします。

病気によっては呼吸が苦しくなるかもしれません。口腔、咽頭、鼻腔内腫瘍の場合、上部気道が閉塞し、上手く酸素を肺に送ることができません。肺や気管など下部気道に問題があれば、酸素を身体に取り込むことが難しくなります。いずれの場合も、早い段階での酸素室の導入、呼吸を落ち着かせる投薬を行います。呼吸が苦しいときは、窓をあけて、なるべく外の空気、風を感じることができるようにしてあげてください。上部気道の閉塞は、希望されれば、永久気管手術の対応となります。

疼痛の管理がシビアになってくることがあります。フェンタニル、ケタミン、モルヒネなどの医療用麻薬をメインに、投薬をきめ細かく調整していきます。小型犬・猫から超大型犬まで全ての大きさに対応できるフェンタニルパッチを揃えています。当院は麻薬施用免許証保持病院です。医療用麻薬に対する厳しい保管取扱いを忠実に守っています。

死亡直前期と意思決定、自宅での自然死へ

この時期、ご家族は、複雑な感情を抱きます。例えば「長く生きてほしいと思う反面、もう苦しまずに早く最後が来て欲しい」や「ゆっくり寝ていて欲しいけれど、起きて御飯も食べて欲しい」などです。これらの複雑な感情は投薬の判断を難しくさせます。バランスを考えて、どれを重要視して治療するのか、ご家族とのコミュニケーションを重ねながら決めていきます。

​点滴をしている場合、この時期に輸液を終了します。死亡直前期の輸液は腹水や胸水、浮腫を増やし、動物の苦痛を増やす一方で、症状を緩和させない恐れがあるからです。

この後、自然死を迎えます。呼吸の様式が変わったり、体温や意識レベルが低下したりします。最後まで穏やかな道のりとなるよう手助けしていきますが、「あとどのくらい」で「なにが起こるのか」を正確に予測することは非常に難しいこともあります。

​自宅での安楽死は選択肢のひとつです

 

治ることのない苦痛を与え続けることをやめ、もう楽にさせてあげたい、住み慣れた家で、お気に入りの場所で、家族皆に抱かれて送り出してあげたい。その希望があれば、崇高な決断に敬意を払い、厳粛に、お手伝いいたします。痛みや苦しみを決して感じさせず、穏やかな旅立ちを迎えます。安楽死を軽く受け止めているわけでは決してありません。選択肢の一つとして、ご家族の意思を尊重します。一連の緩和治療中、投薬で改善しない非人道的な疼痛や障害があった場合、動物を一番に思い、獣医師から安楽死を薦めることもあります。当院において、終末期に安楽死を選ぶ方と、自然死を選ぶ方は半々です。家族間でも事前によく話し合いを重ねてください。

家族の希望があり、獣医師が安楽死が妥当と診断した場合、とりおこなう際に全ての手順は事前に説明を行います。またご家族全員の同意をいただきます。まず静脈に留置針を入れて、薬剤の投与経路を確保します。その後薬を投与します。安楽死中に、痙攣する、悲鳴をあげるなどのようなことはありません。痛みも苦しみもありません。動物はとても深く眠りに落ち、静かに旅立たれます。

これは、肺がんだった自分の犬を自分で安楽死した院長からの個人的なお願いです。安楽死を選んだことを、後悔しないでください。最後まで、動物のためを思った勇気のある決断だったと思います。動物を、晴れることのない苦痛から、解放したのですから、責任を全うし、素晴らしい飼主だったことに、間違いはありません。いままで、たくさんのプレゼントを動物にもらってきたのではないでしょうか。最後に家族としてできることは、最後のお返しは何でしょう。安楽死であろうと、自然死であろうと、動物を思って選んだことがすべての正しい答えです。

 

*健康な動物の安楽死は承りません *当院で治療を試みていない軽病・問題行動・人間の都合での安楽死は承りません *里親の相談は承りません *当院での安楽死は8万円ほどの費用がかかり通常の動物病院での処置より割高です。これは、治療費や介護の煩わしさなどによる安易な依頼を防止するためです。ご了承ください。

旅立ちのあとで


動物が旅出ったあと、必要あらば、信頼できるペット霊園、火葬施設などもアドバイスさせていただきます。ご遺体のケア(エンジェルケア)、火葬まで時間をおく場合のドライアイスの手配も承ります。動物火葬には悪質な業者も存在します。当院では院長が都内の霊園ひとつひとつに足を運び見学し、動物とその家族が安心してセレモニーが受けられる霊園を厳選しています。宗派を考慮することも可能です。遺骨の安置について、霊園でのお墓、ご位牌などの相談も承ります。

安楽死について
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